こんにちは。今回照明を担当します、斎藤浩一郎と申します。
普段は、演劇とかの照明をやっていたりします。
それから、舞台照明(特にアマチュアや学生演劇の)が、非常に現場経験偏重で、知識面に関してふわふわしていることに憤りと遺憾の念を覚え、そういった部分をフォローするようなブログを書いています。(最近、ブログ更新できてないんですけど……)
そうそう、フォロー。フォローの話をするんでした。
今回の『像と響』では、赤外線カメラを使って動く物体(具体的には、ジャグリングのボールやリングですね)を追尾し、そこに光が当たるようにムービングライトを動かす、ということをやっています。
このような、「動き続ける人やモノを追尾する照明」のことを、専門用語で「フォロー」と言います。
今回はこの「フォロー」を、ムービングライトという機械の力を借りて実現するわけですが、世の中の演劇・コンサートにおいては、フォローは人力で行うのが普通です。
フォローのために使われるのが、いわゆる「ピンスポ」と呼ばれる灯具です。
アイドルのコンサートに行って、華麗にダンスする演者を追う光があれば、この写真のように人力で操作された「ピンスポ」と、操作する「ピンオペレーター」が存在しているというわけです。
あ、ピンスポと言うと、下の写真のような「特定の部分だけを照らすスポット的な明かり」は全部ピンスポだと誤解されることがありますが、動かないものはピンスポとは言いません。これについては後で述べます。
↑「動かないピンスポ」?
さて、フォロー=追尾照明の歴史はとても長いです。
舞台照明に電気・電球が取り入れられるより以前からあります。
日本では、歌舞伎において、黒子(黒ずくめをしたスタッフ)がロウソクを持って役者の顔を照らしながら動く「差し出し」という技法が確立されていました。
一方、ヨーロッパでは、石灰に酸水素炎という強い炎を吹きつけた時に強く白く光るのを利用して、「ライムライト(limelight)」というフォロー用のスポットライトが開発されています。
→http://www.iatse354.com/354/354html/limelight.htm
注目と名声を集めることを、日本語で「脚光を浴びる」といいますが、英語では “be in limelight” といいます。欧米では、スポットライトでフォローされることはスターの象徴だったわけですね。
しばらくして、舞台照明にも電気が入ってきますが、白熱電球では、「フォロー」に使える強さの光はなかなか出ませんでした。「フォロー」は客席の最後部から行われ、しかもひときわ強く演者を照らし出す必要があったためです。
そこで、1960年代までは、炭素棒の放電を利用した「カーボンアーク・スポットライト」が、フォロー用ライトの光源の主流でした。
↑穴澤喜美男(1953)『舞臺照明の仕事』(てすぴす叢書)p.70より。
電池の+極-極それぞれにシャーペンの芯を付けて近づけると放電現象を起こしますが、あれを巨大にしたものです。
https://www.youtube.com/watch?v=7BUwHCI4qsE
この映像はフォロースポットではなく映写機のものですが、このように燃え尽きていく炭素棒を繰り出しながら、動く演者を追尾するという職人芸が当たり前だったのです。
現在はさすがにカーボンアークは廃れ、光源はキセノンランプやLEDが使われていますが、人の手で操作するという職人性は失われていません。
フィギュアスケートのエキシビションマッチでの見事なフォロースポットを見たことがありますか。
あれはすべて人の手によるものです。
前置きが長くなりました。
今回、『像と響』でムービングライトを使ったフォローを導入することは、舞台照明史的に価値のあることだと思っています。
理由は2つあります。
1つめは、KAIKAという客席数50程度の小劇場において、フォローを成立させていること。
小劇場においては、あまりフォローは行われません。
人が足りないのと、フォロースポットを置くスペースが無いためです。
特定の場所に光を集中させたい場合には、最初に述べた「動かないピンスポ」のような技法が使われます。
これは、「単サス」(単独のサスペンションスポットライトの略)あるいは単に「サス」と呼ばれます。
小劇場系のパフォーマンス(演劇・ダンス)においては、こうした静的な照明シーンをもとに組み立てることが前提となっているので、フォローが無いからと言って怒り出す演出家は居ません。
このような状況において、今回は、機械の力を借りて「フォロー」を実現しているわけです。
ちなみに、バブル時代の結婚式場などで、リモコン操作のピンスポ(http://sts.kahaku.go.jp/sts/detail.php?no=100810121353&c=&y1=&y2=&id=&pref=&city=&org=&word=&p=201)
が導入されたことがよくありましたが、けっこうお粗末なものだったので、その後流行っていません。
2つめは、小型のムービングライトであることをフルに活用している点。
頭が回転するタイプのムービングライトは、もっぱら大規模コンサート用で、とても大型で小劇場で使うことなどあり得ないものでした。
↑これは、大型のムービングライト。
下の写真は、今回と同じ小型の機種を演劇で使った時の写真です。
2つの写真を見比べれば、小劇場にとって革命的な小ささであることが分かると思います。
当然、大型のものは首振りも重く、ジャグリングのボールを追尾できるような速度は絶対に出ませんでしたが、今回使っている機種は、それなりに追尾できる速度で動いてくれます。
少し話が長くなりました。
ムービングライトによるフォローの他にも、照明的に先進的な試みがいくつかあります。
ぜひ、技術畑の人も見に来てくださいね。
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